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祇園に暖簾を掲げる仕出料理店の主であった平田多作さんが料亭「閑人」を開いたのは平成6(1994)年、御年65歳のこと。自ら包丁を握り割烹料理も供していた主が集大成の場として選んだのは、高台寺近くの静かな路地だった。個人の邸宅であった場所に蔵だけを残して一から建てられた店は同世代の数寄屋建築の棟梁によるもの。現代的な広々した空間と日本建築のいいところを兼ね揃えた店内にはゆったりとした時間が流れ、訪れる客たちに心からくつろいで欲しいと願う主の想いがそのまま体現されている。

残念ながら平田さんは一昨年に他界したが、店は昨年娘である女将と平田さんの愛弟子であった料理長によって新たな出発を遂げた。料理長はまだ若手ながら、料理界の重鎮とも称された師が掌中の珠として育てあげた逸材。基本に忠実は当然のこと、遊び心に富んだ師匠の料理を受け継ぎつつ、若い感性を活かした個性あふれる料理を披露してくれる。何代も続く店が今あるのは伝統を守りつつも常に革新を遂げてきたからこそ。自らの眼と舌で、新しい伝統が紡がれる瞬間に立ち合いたい。 |