花見小路を少し脇に入ると目に留まる、古式ゆかしい日本家屋。「日本のしゃぶしゃぶは此処から始まった」と言われる十二段家である。ユニークな店名は初代主人・精之助氏の歌舞伎好きが高じて名付けられたもの。精之助のお気に入りは十一段目まである演目の「忠臣蔵」。京都を訪れる観光客に向けて「ほど近い南座で忠臣蔵を観劇した後、十二段目は当店でお愉しみください」との思いが込められている。
「しゃぶしゃぶに合う、本当に美味しいお肉を厳選しています」と話すのは三代目・現主人の隆光氏。最初のひと口が旨いのは当たり前。最後のひと口まで美味しく味わえるお肉を日々、昔馴染みの肉屋と相談して選んでいる。近江牛、松阪牛などの中からその日、最上のお肉を選りすぐる。使用部位は国産牛肉の肩ロース。1頭あたり数キロしか採れない希少品だ。近年、しゃぶしゃぶに迫る人気なのがすき焼きだ。炊くのではなく、あくまで焼きにこだわる、厚切り肉の旨みが満喫できる逸品。彩り豊かな前菜もしゃぶしゃぶ・すき焼きとともに好評だ。
格子戸を開けると、とたんにタイムスリップしたかのような気分に包まれる。築二百年にもなる建築物は、趣あるお茶家を改築したものだとか。店内に所狭しと飾られているのは民芸の巨匠、河井寛次郎や浜田庄司、棟方志功の手によるもの。また純和風の落ち着いた個室は、戦後の復興期には吉田茂ら首脳陣が外交の場と用いたとか。悠久の歴史ロマンと最上の食材が、創業当時から変わらぬ秘伝のタレに絡み合い、至福のひとときへと誘う。